スーパー上昇曲線
チェロに限らないが、ある時突然伸びる瞬間がある。
それが今だ。
ずっと、なんとなく合ってるけど美しくない音程だった。レイトスターターの音感問題かと思って絶望気味で、この先チェロを弾いていても美しい音程を奏でることはできないのではないかと常に思っていた。
はい、違いました!
きっかけはよく分からない。ふと構えを変えた。具体的には上半身をチェロに対して前に少しだけ移動した感じ。肩の位置がチェロに対して前になったと言おうか。
それで変わった。いきなり美しい音程がチェロから出てきた。衝撃。チェロ始めて20年弱。ずっと試行錯誤してきた肘の位置、左手の甲の形、角度……。
それが全て解決してしまった。鏡で確認すると、いかにも正確無比に押さえてますといいたげな美しい手の形。自分の左手ではないみたい。
しかも! ハイポジションの音程も安定してきた。肩が前に出たことで、肘の位置も前に出て、手の形が自然になった。押さえの圧力も強くなった。音が凄く太くなる。
どうせ奇跡で明日には戻っちゃうんでしょ、とか思ってたけど戻らない。押弦する弦が変わっても変な小細工なしで、ありのままに良い音程が出る。
左手の微妙な小細工調整が不要になったら、音楽もイキイキとしてきた。左手に気を使わなくていいからだ。ボウイングに躍動感が出て、身体全体で弾ける。
なんやこれ。凄いぞ。
チェロ弾いててここまで劇的に変化を目の当たりにしたことがない。嬉しすぎる。
左手だけかと思いきやなんと右手も。
これもきっかけはよく分からない。ふとフロッグを持つ位置を毛の生えている方へ1センチくらい動かした。
そしたら、なんとめちゃんこバランスがいい。意識せずとも小指も機能してくれる。腕を自分ではないように軽やかに動かせる。
圧力も勝手にかかるようになり、駒寄り音が自然。音はデフォルトで太く明るい。腕が軽いので音質変幻自在。
ペレーニがよく見せる弓元の極限粘り、なんとこれができた! 弓の長さが体感1.3倍くらいになった感じ。こんな弓元まで使えちゃうの? みたいな。
息の長い旋律を朗々と弾ける。こんな日がくるとは。
旋律だけではない。早いパッセージを歯切れよく弾くこともできる。なんでだか分からん。小指の安定か?
7月の室内楽コンサートの曲でずっと苦しんで、試行錯誤していた。その甲斐あってか、ついに突き抜けた。
全身全霊で取り組んでいたから、神様がヒントをくれたのか。それほど突然訪れたこの上昇曲線。
チェロ弾いてきて、一番楽しい。こんな日がくるなんて夢みたい。